ポータブルPAを補う新感覚のミキサー / プロセッサー goRack
DiGiRECO VOL.180号 掲載記事
各社から安価で高品位なポータブルPAが発売されている昨今、カフェやレストラン、ちょっとしたオープン・スペースでのライブの敷居は随分と下がりました。しかし、簡易PAでは「もっと良い音で演奏したい!」という音質面の欲求を妥協せざるを得ないケースが少なくありません。そんな時に便利なのが、dbxのプロセッサーを内蔵した小型ミキサー「goRack」。手の平サイズのボディーに、PAに必要とされる様々な機能を盛り込んだポータブルPAユーザー必見の製品です。
大きく分けて、PAシステムには「音量を引き上げてスピーカーで鳴らすこと」と「聴きやすい音に加工すること」という2つの役割がありますが、ポータブルPAの場合は後者の要素が省略されてしまいがちで、音質面での妥協を余儀なくされるケースが少なくありません。 そんな中、ステージからレコーディングまでプロセッサーの定番モデルを数多く手がけているdbxから発売されたgoRackは、まさにそういった音質面を改善したいと考えているミュージシャンのための製品です。 goRackの役割はミキサーとエフェクト・プロセッサーの2つ。まさに簡易的なポータブルPAの弱点を補ってくれるアイテムと言えます。
▲手の平サイズで、誰でも本格的なサウンドが得られる小型ミキサー、dbx goRack 価格:オープン(実勢価格:1万5,000円)
▲スイッチでマイク/ラインの切り替えが可能な2系統の入力、AUX入力、メイン出力を搭載しています
まずはミキサーとしての機能から見ていきましょう。入出力端子は本体背面にまとめられており、入力はXLR/TRSコンボ・ジャックが2系統に、ステレオ・ミニのAUXという計4系統。出力は2系統のXLRを搭載しています。2系統の入力端子はスイッチで個別にMIC/LINEの切り替えに対応しているので、ダイナミック・マイクをはじめ、ワイヤレス・システムからエレクトリック・アコースティック・ギターやキーボードといったライン機器まで、幅広い楽器を接続可能。もちろんD.I.を使えば、エレキ・ギター/ベースの接続もOKです。
入力レベルはトップ・パネルのゲインつまみで個別に調整が可能。入力レベルに応じて、緑/オレンジ/赤の3色に点灯するシグナル・インジケーターが用意されているので、レベル管理も簡単です。 そして、最終的なレベルは本体中央のボリューム・エンコーダーで調整します。なお、出力段には回路保護用のリミッターを搭載しているので、スピーカーやパワーアンプを直接接続する場合も安心です。 リミッター動作時にはディスプレイの右下に「ドット」が表示されるので、その場合はボリューム・エンコーダーで全体の音量を下げていきましょう。 また、本体下部の5つのボタンのうち、一番左側のボタンを押せば、すべての音を一時的にミュートすることができます。
アンチ・フィードバック
フィードバック(ハウリング)の発生を抑えることができるのが、アンチ・フィードバック(ハウリング・サプレッサー)です。
dbxのハウリング・サプレッサーはライブハウスの定番。独自のハウリング制御アルゴリズムを搭載しており、「ライブ」/「スピーチ」/「ライブ/スピーチ」の3種類から選択するだけで音質に影響を与えることなく、PAの大敵であるフィードバックをしっかりと抑え込みます。
コンプレッサー
音量のバラつきを抑え、聴きやすいサウンドに整えるのが、コンプレッサーの働きです。PAに必須のエフェクトですが、パラメーターが多いために音作りの難易度はかなり高め。
しかし、goRackでは音の圧縮具合を1~99段階から選ぶだけで、その他のパラメーターを自動的に設定してくれるので、難しい知識は一切不要です。
音を出しながら、良い感じのかかり具合になるようにダイヤルを回していきましょう。
サブハーモニック・シンセサイザー
入力した音の低域を増強するのが、サブハーモニック・シンセサイザーの役割です。
EQ(イコライザー)とは異なり、入力音をベースに新しい信号を合成することでパワフルな低域を得るので、違和感の少ない低域を作ることができます。こちらもダイヤルでかかり具合を調整するだけで使えます。
EQ
聴きやすい音質に調整するのが、EQの働きです。本来はサウンドを聴きながら細かく微調整していく必要があるのですが、goRackではシーンに応じて使い分けできる16種類のプリセットから選ぶだけで、効果的なサウンド・メイクが行えます。
プリセットは「低域ブースト」や「高域ブースト」…といったものから「アコースティック」や「ロック」…など、実戦的な設定が用意されています。本体底面にプリセット名が記載されているので、それを参考にしても良いですが、ここは演奏しながらプリセットを切り替えていき、好みのタイプを見つければOK。
決して難しく考える必要はありません。
楽器をつなぎ、音量を調整したら、あとはエフェクトを選ぶだけで高音質なサウンドを作れるのがgoRackの魅力と言えます。また、本機に直接入力ソースを接続して使うだけでなく、ミキサーとスピーカーの間に接続して高品位なエフェクト・プロセッサーとして使うのもオススメです。
そこで知っておくと便利なのが、信号のルーティング。goRackには図のように3タイプのルーティングが用意されており、用途に応じて使い分けることで最適なサウンドを得ることができます。
まず、goRackをメイン・ミキサー/プロセッサーとして直接入力ソースを接続して使う場合は、パターン1のルーティングが最適です。この設定ではマイク/楽器にすべてのエフェクトがかかるので、AUXに接続した音楽プレイヤーでオケを鳴らしながらの演奏やスピーチに向いています。
パターン2はgoRackをエフェクト・プロセッサーとして使う場合に最適なルーティング。入力をステレオとして扱うため、ステレオ・イメージを保ったままエフェクト処理が行えるのが特徴です。
パターン3は、パターン1と同様に入力ソースを直接接続する場合のルーティングです。パターン1と異なるのはサブハーモニック・シンセサイザーがAUXの信号だけにかかり、サウンド全体はGEQで整えるという点。パターン1を試してみて、オケの低域が弱いと感じた場合に試してみると良いでしょう。
▲目的に応じて、3パターンの信号ルーティングを切り替えることが可能です |
▲直接入力ソースを接続して「PAの核」としても、ミキサーとスピーカーの間に接続して「エフェクト・プロセッサー」としても使えます |
・ goRackの詳しい情報はコチラ
「DiGiRECO VOL.180号で掲載」