KDDI維新ホール(山口市産業交流拠点施設) 様
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“超多目的ホール”の音響を支えるVTX A Series
新山口駅北口にオープンしたKDDI維新ホール
新山口駅直結の多目的ホール、KDDI維新ホール
2021年、山口県山口市に、これまでに無かったタイプの施設がオープンしました。『KDDI維新ホール(正式名称:山口市産業交流拠点施設)』と名付けられたこの施設は、文化・スポーツ・ビジネス・健康など、さまざまな分野で人々の交流を促進する多機能複合施設。メイン・ホール、大小12の会議室、メイン・スタジオといった施設で構成され、新山口駅直結という利便性の高いロケーションも特徴です。山口市経済産業部の金子隆明氏によれば、新山口駅周辺の再開発は現在の山口市が発足した2005年から計画されていたとのこと。16年もの年月を経て完成した県民待望の施設、それが『KDDI維新ホール』なのです。
「新山口駅周辺は、以前は小郡町(おごおりちょう)という町で、平成の大合併によって山口市の一部になりました。新山口駅は前の町長さんのご尽力もあり、新幹線のぞみが停車するようになったのですが、駅周辺には人が集える施設が皆無だったので、合併を機に「市民が交流できるような施設を造れないだろうか」という話が持ち上がったのです。ちょうど駅の北側にJRの物販部と引き込み線があった土地がありましたので、そこを活用して山口県の交流人口を拡大し、新しいビジネスを創出するような施設を造れないだろうかと。現在の山口市が発足したのが2005年10月のことですから、かなり長期にわたって具現化したプロジェクトになります。施設内にはメイン・ホールや会議室のほかに、コワーキング・スペースや産業交流スペースといったビジネス活動を支援する施設もあり、屋外の自由通路では地元の特産品なども売られていたりします。また、フィットネス・ジムやシェアハウス型の人材育成施設なども併設されていて、フィットネス・ジムはこの地域に福利厚生施設が無かったこともあり、すでに1,000人以上の会員を抱える人気の施設になっていますね。今回、新しい施設を開設するにあたり、ホールや会議室、ビジネス系のスペース、フィットネス・ジムを造ることにしたのは、より経済活動に近い施設にしたかったからです。県庁や市役所のある山口市の中心部には、美術館などの文化施設が多いので、新山口駅周辺は経済的な活力を生み出すエリアにしたいなと。敷地内は、KDDIさんやNTTドコモさんの5Gの通信環境も整備されています」(金子氏)
KDDI維新ホールの中核をなす施設、メイン・ホール
山口県内最大規模の約2,000人の収容数を誇る
『KDDI維新ホール』の核となる施設が、県内最大規模約2,000人の収容数を誇るメイン・ホールです。コンサートや演劇、ミュージカル、講演会はもちろんのこと、客席は完全に平土間仕様になるため、学会や展示会といった催し物にも対応。従来の多目的ホール以上の柔軟性を持つ、“超多目的ホール”に仕上げられています。
「どこにでもあるような市民ホールではなく、全国から人を呼び込めるような魅力的なホールにしたかったんです。具体的には、多目的ホールであると同時に、本格的なライブ・ハウスとしても機能する施設にしたいと考えました。周辺の県も含めて、このあたりには大きなライブ・ハウスがありませんから、著名なアーティストがコンサートを行うような施設ができれば、若者たちが自然と集まるようになるのではないかなと。新山口駅は新幹線が停車するだけでなく、山口県内だったらどこへでも乗り換えなしで行ける利便性の高い駅で、ここは駅直結の施設ですから、夜9時に終演するようなコンサートでも親御さんは安心だと思うんです。東京のEX THEATER ROPPONGIのようなイメージの本格的なライブ・ハウスにしたいというのは、一番最初からあったアイディアですね。それと完全に平土間に変えられるようにしたのは、周辺のホテルとも連携して、学会やコンベンションといった催し物にも対応できる施設にしたかったからです。山口県にはテーマ・パークが無いので、親子連れを対象としたイベントなどでも利用していただきたいなと。結果的に、本格的なライブ・ハウスとして機能し、平土間にすることによって多様なイベントにも対応するという、欲張り過ぎな施設になりました」(金子氏)
本格的なライブ・ハウスとしても機能する設備になっている
メイン・ホールの内装は、黒色を貴重とした落ち着いた雰囲気に仕上げられています。今回、音響システムの設計/納入を担当したヒビノスペーステックの庄健治氏は、「こういう公共ホールにしては珍しく、デッドな響きの音響になっている」と語ります。
「最初から“超多目的ホール”を目指していたので、いわゆるコンサート・ホールのような響きにしてしまうと使いづらい。今回、弊社は建築音響設計にも参加することができましたので、電気音響を優先したデッドな音響にしていただきました。ただデッドな音響と言っても、完全に響きを無くしてしまうと人間の感覚として気持ち悪いので、メイン・スピーカーの周辺に反射板を設置するなど、少し響きを残してもらって。凄く使いやすい音響になっているのではないかと思います」(庄氏)
VTX A Seriesによって妥協のないライブ・サウンドを実現
そしてメイン・ホールのスピーカーとして選定されたのが、JBL PROFESSIONALの3Wayフルレンジ・ラインアレイ・スピーカー、VTX A Seriesです。メインのサイド・スピーカーとして12インチの低域ドライバーを搭載したVTX-A12、センター・フィルに8インチの低域ドライバーを搭載したVTX-A8が設置され、さらに主に平土間時に使用される仮設のスピーカーも、メインと同じ系統のVTX-V20が導入されました。ヒビノスペーステックの庄氏は、「ライブでの使いやすさなどを総合的に勘案し、VTX A Seriesを推薦した」と語ります。
「こういうホール常設のスピーカーって、帯に短し襷に長しだったりするんです。コンサートには物量的に足りないですし、かと言って講演会ではそんなに数は必要としませんからね。今回は、“本格的なライブ・ハウスとしても機能する”という明確なコンセプトが最初からありましたから、スピーカーに関しては質的にも量的にも妥協せずに、JBL PROFESSIONALのVTX A Seriesを推薦させていただきました。VTX A Seriesは、従来のJBLの良さを残しつつ、日本人が好むヨーロピアンなサウンドに仕上げられている新世代のスピーカーなんです。ロックからアコースティックまで、どんな音楽にも合う使い勝手の良いサウンドというか。それとライブ・ハウスというコンセプトを実現するには、12インチ・ダブル以上のものしかないと考えていましたから、今回はVTX A Seriesがベストな選択だと思ったんです」(庄氏)
メイン・スピーカーとして導入されたVTX A Series。 サイド(LR)スピーカーはVTX-A12が12/3対抗という構成 |
主に平土間時に使用される仮設スピーカー VTX-V20。 4/2構成で4セット用意されている。 台車に乗っていて自由に移動が可能 |
『KDDI維新ホール』の舞台スタッフである田原耕二氏はVTX A Seriesについて、「これまでのJBLとは一味も二味も違う、新しいサウンドを持ったスピーカー」とその印象を語ります。
「僕は“ジムラン”と呼ばれていた時代からJBLのスピーカーを使ってきたわけですが、そんな僕からするとVTX A Seriesは凄く新しいサウンドという印象を受けました。より今風のサウンドになり、対応の幅が広くなったというか。音的には昔のJBLとはかなり違う印象なんですが、オペレートするにあたって違和感はありません。ラインアレイであることも大きいのでしょうが、位相特性という点でも凄く完成されていて、ポテンシャルを秘めたスピーカーという感じがします」(田原氏)
メイン・スピーカーのVTX-A12は、片側12/3対向という大規模な構成。システム設計を担当したヒビノスペーステックの吉田直樹氏は、「補助スピーカーを設置せずに、Jアレイで客席すべてをカバーしているのが今回のシステムのポイント」と語ります。
「“本格的なライブ・ハウス”として、常設のスピーカーでロックのコンサートにも対応できるようにするため、両サイドに吊ったVTX-A12だけで高い出力を実現しました。片側12/3対向という構成ですが、ここまでのラインアレイが常設で入っている多目的ホールというのは非常に珍しいのではないかと思います。そして平土間時の展示会などの催し物の場合は、袖に置いてあるグランドスタックのVTX-V20を使うという分担ですね。今回はシーリング・スピーカーや補助スピーカーを設置せず、メインのVTX-A12で2階席の後方から1階席の前方までカバーするシステムになっているわけですが、これは音質を第一に考えてのことです。これだけの広さのホールですと、補助スピーカーを設置するのが一般的なのですが、そうすると音の明瞭度が下がってしまう。もちろん必要に応じて、センター・フィルのVTX-A8で客席手前の中央部分はカバーできるようになっています。LCRという考え方ではないのですが、両サイドのVTX-A12の指向性がしっかりしているので、真ん中の薄く感じられる部分をセンター・フィルで補うという形ですね。大規模な構成のVTX-A12ですが、設計士の方と相談しながら、極力目立たないように設置してあるのも、今回こだわった部分です。舞台と客席を仕切る幕の高さは決まっていましたので、その中で設置できるスピーカーの構成をシミュレーションした結果、ステージ上に溶け込んでいるように設置することができました」(吉田氏)
補助スピーカーを設置せず、メイン・スピーカーで会場全体をカバー
豊かな低域を実現するサブ・ウーファーのVTX-S28が、Jアレイの中に組み込まれているのも、今回のシステムの特徴と言えます。音響のチューニングを担当したヒビノスペーステックの大平晋氏によれば、これも音質を重視してのセットアップとのことです。
「サブ・ウーファーは通常、建物の重量制限の関係からグランドスタックで設置することが多いのですが、そういったシステムですと、1階席と2階席でどうしても低音の聴こえ方が違ってしまうんです。しかし今回はメイン・スピーカーとサブ・ウーファーの距離差を無くして、すべての席に同じような音を届けるため、サブ・ウーファーをタンデムで吊ることにしました。もちろん、重量制限はあったのですが、設計士の方にご協力いただきながらシミュレーションして、何とか吊ることができたという感じです。完全な露出型で、サランネットなどの音質に影響を及ぼすアタッチメントを一切取り付けていないので、スピーカーの音がダイレクトに客席に届くというのはこのホールの特徴なのではないかと思います。今回、VTX A Seriesをチューニングして感じたのは、VERTEC SeriesやVTX V Seriesとは違ったタイプのスピーカーだなということ。VERTEC SeriesやVTX V Seriesは、良くも悪くもアメリカンなロック・サウンドという印象があったのですが、VTX A Seriesは現代的なサウンドで、非常に扱いやすいスピーカーだなと感じました。根底に伝統のJBLサウンドを残しつつ、現代の音楽に合うように、特に高音域が上手くチューニングされているというか。Smaartを見ながら調整作業を行なったのですが、低域から超高音域まで、位相特性も非常に優れていましたね。インフィルのVRXとの混ざりも良く、コンサートだけでなくいろいろなイベントに対応できるスピーカーだと思います。センター・フィルのVTX-A8も非常に優秀ですしね」(大平氏)
パワー・アンプは、CROWN IT4x3500HDとIT12000HD。手前に見えるのはDiGiCo 4REA4
音響調整室に設置されたハウス・コンソール、DiGiCo SD12-96
VTX A Seriesをドライブするパワー・アンプは、CROWN IT4x3500HD(計16台)およびIT12000HD(計6台)で、ハウス・コンソールはDiGiCo SD12-96を導入。また、外部から持ち込まれる機材の接続を容易にするため、最新鋭のデジタル・プロセッシング・エンジンDiGiCo 4REA4も導入されました。ヒビノスペーステックの浦崎仁裕氏は、「これから10年、20年と長期間使われることを考え、最新鋭の機材を提案した」と語ります。
「コンソールに関しては音質を第一に考え、SD12-96を推薦させていただきました。96kHz対応の高音質とDiGiCoの設備音響に対するアプローチが、このホールにマッチしているかなと。今回、本線に関しては音質と安全性を考慮してOPTOCOREを採用したのですが、ここはあくまでも多目的ホールですので、運営系についても考えなければなりません。それを踏まえて導入したのが4REA4で、普通であればハウス・コンソールを中心に据えたシステムになりますが、今回は持ち込み機材への対応や運営系とのやり取りは、SD12-96ではなく4REA4に担わせています。最近はいろいろなプロトコルが出ていますが、4REA4があればどんなプロトコルにも対応することができる。本線に関しては音質と安全性を重視しつつ、全体のネットワークは効率よくシンプルに。今後はこういうシステムが主流になっていくと考えています」(庄氏)
6月26日にグランドオープン記念式典が開催され、7月1日から本格運用がスタートした『KDDI維新ホール』。金子氏は「多くの方のご尽力によって、想像していた以上の素晴らしいホールが完成した」と語ります。
「多目的ホールでありながら、本格的なライブ・ハウスとしても機能する施設という目標は、皆さんのおかげで非常に高いレベルで達成できたのではないかと思います。今回、ヒビノスペーステックの皆様には、初期の計画段階から現在に至るまできめ細やかにサポートしていただき、いろいろなアイディアやノウハウを注入してくださってとても感謝しています。こういう時代ですから、このようなホールがたくさんできるわけではないと思いますが、“山口モデル”とも言えるこのホールが成功すれば、地方のホールの在り方も変わっていくのかなと。行政としても大変勉強になりました。今後、様々なコンサートやイベントが開催されると思いますので、ぜひ多くの方にご来場いただき、このホールで表現される音楽、映像、舞台を楽しんでいただければと思っております」(金子氏)
写真向かって左から、ヒビノスペーステックの吉田直樹氏、ヒビノスペーステックの庄健治氏、山口市経済産業部の金子隆明氏、
舞台スタッフの田原耕二氏、ヒビノスペーステックの浦崎仁裕氏、ヒビノスペーステックの大平晋氏
主要な納入機材
機材 | ブランド名 | 製品名 |
3-Wayフルレンジ・ラインアレイ・スピーカー | JBL PROFESSIONAL | VTX-A12 |
サブウーファー | JBL PROFESSIONAL | VTX-S28 |
3-Wayフルレンジ・ラインアレイ・スピーカー | JBL PROFESSIONAL | VTX-A8 |
3-Wayフルレンジ・ラインアレイ・スピーカー | JBL PROFESSIONAL | VTX-V20 |
サブウーファー | JBL PROFESSIONAL | VTX-S25 |
2-Wayフルレンジ・ラインアレイ・スピーカー | JBL PROFESSIONAL | VRX932LA-1 |
2-Wayフルレンジ・ステージモニター | JBL PROFESSIONAL | VTX-M20 |
2-Wayフルレンジ・ステージモニター | JBL PROFESSIONAL | VTX-M22 |
パワーアンプ | CROWN | IT4x3500HD |
パワーアンプ | CROWN | IT12000HD |
デジタルミキサー | DiGiCo | SD12 |
マトリクスシステムコントローラー | DiGiCo | 4REA4 |
KDDI 維新ホール(山口市産業交流拠点施設) 〒754-0041
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納入会社 〒105-0022
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